長い歴史と広い国土、多くの民族により無数のバリエーションを誇るペルシャ絨毯ですが、そのデザインにはいくつかの共通の特徴があります。
ペルシャ絨毯のデザインは大きく2種に分けられます。
ひとつは下絵のないもの。これは、古来から絨毯を織っている民族が生み出したそれぞれの伝承模様と、それらが相互に影響を及ぼしながらイラン各地で織られるようになったものです。もう一つは下絵のあるもの。これは伝統的な絨毯が町に迎えられ、工房で織られるようになった絨毯です。
下絵のないペルシャ絨毯は、根本的に自由で大らかです。伝承模様を織り継ぎながらも個々のデザインは織り手の発想にゆだねられ、全く同じ模様は織られません。工房織りのような正確さはない代わりにウィットに富んだ創造性や織りの楽しみが伝わる生き生きとした表情を魅力とします。模様は多種多様で、幾何学的なデザインから鳥や動物がたくさん織り込まれる抒情豊かなデザインまでさまざまです。
ペルシャ絨毯は町の工房で洗練され、より完成度の高いデザインに昇華されました。これらは方眼状の下絵を用いることで緻密な再現を可能とし、数々の美しいデザインが編み出されるようになります。デザインの種類にはメダリオン・コーナー模様、同じ模様で埋め尽くすオールオーバー模様、升目に区切られた庭園模様などがありますが、中には祈祷に使われるメフラブ模様や、絵画のように織られるデザインもあります。
メダリオンとは、絨毯の中央に配される丸、楕円、ひし形などの形をした装飾模様です。多くのペルシャ絨毯はこのメダリオンを中心にデザインされますが、サイズも形もさまざまで、2つ、3つのメダリオンが連なるものもあります。また、メダリオンの上下にサルトランジ(ペンダント)と呼ばれる飾りが織り込まれることもあります。伝統的なメダリオンは産地や部族によって特徴があり、この形により産地を見分けることもできます。
花や葉が咲き誇るしなやかな枝がくるくると大きな渦を巻きながら描かれる蔦状の文様をエスリムといいます。絨毯の表情に躍動感を与え、永遠の生命を感じさせる文様です。
丸い形の花(ロゼット)を核としてひし形で囲み、外側にしなる4つの小さな葉で囲んだ文様。産地によって大小さまざまなヘラティ模様が見られ、繰り返される細かな模様は繊細な表情を放ちます。魚の形が葉に変化したともいわれることからマヒ(ペルシャ語で魚の意)模様とも呼ばれ、殊にタブリーズのマヒ模様は緻密な美しさで知られています。
縦横に区切られた領域のそれぞれに花や植物、柳や花瓶の花などを描くもの。より写実的な庭園模様もあることからパネル模様とも呼ばれます。バクティアリ族のデザインですが、現在ではクムやタブリーズなどでも洗練されたものが織られています。