ゆったりと開いた大輪の花を思わせる、やわらかな赤。
カラフルなフサ飾りに縁どられた大きな正方形は、紋章めいた花紋の並ぶ枠模様の中に帯模様を広く区切り、これも大きな文様が悠然と並んでいます。
振袖のように華やかなこのキリムは、イラン北西部、ダシュテモガンで織られたスマックキリムです。
スマックとは平織のたて糸に追加の色糸を巻き付けながら文様を織り出していく技法です。キリム織りの中では最も時間と手間がかかり熟練した技術を要するものですが、織りあがりは繊細で美しく、また隙間もなく厚手に仕上がる織り地は非常に丈夫です。
このキリムはウールのたて糸に中太のウールの色糸を用い、かっちりと織り上げられています。一目一目をくっきりと見せる手慣れた調子の織り目は触れてみるとしっかりと織り締められ、鷹揚に見えながら織り段の隙間を開けない熟練を感じさせます。直線を組み合わせた大きな文様は一つ一つの輪郭を別の色糸で縁どりながら、ごまかしのきかないシンプルな輪郭をきれいに浮かべあげています。
花めいた優雅な印象を捉えた視線は中央のぎざぎざとした動物に吸い寄せられ、口を大きく開けた強い表情のオオカミだとわかります。（←）

（→）これは群れを守る神の使者、「良いオオカミ」を現し、尻尾も含めてぎざぎざの形状はオオカミの歯を象徴しています。その上下の太帯に描かれた派手やかな花は、これもよく見ると魔よけのサソリと力の象徴、羊の角が組み上げらたものです。
モチーフはどれも余分な装飾を施さずに一色でなめらかに織り染められ、その周囲の静かな余白が一つ一つの存在感を際立たせています。丸みのある赤やオレンジの明るくも抑えた色調の中で空色が水のような色むらを揺らし、羊毛色のベージュが軽やかな明るさを放っています。
全体の形は正確な正方形ではなく、上下の辺が共に少し右肩上がりになっています。織り地は丈夫な厚みがありながらもほってりとしなやかで、端をつかんで持ち上げてみると詰んだ織り糸の重みがずしりと手に伝わります。表面の手触りはキリムとしてはさらりとしていますが、手ごたえの強い色糸の細かな毛羽立ちを感じます。
上下の端に出されたたて糸は数本ずつを三つ編みに編み上げ、その端には細くカラフルな色糸のタッセルを取り付ける手の込んだ仕上げがなされています。
リビングやダイニングにはもちろん、和室の座卓に合わせて敷き広げても。部屋中に華やぎが広がる、美しい女性のようなスマックキリムです。