はらりとした淡さのなかに、重なり、繊細な和音を響かせる緑にピンク、静かな藍。大小の幾何学模様も細かな花もやわらかな色彩の変遷の中でゆらりと浮きまた沈み、輪郭や背景に入り混じる白糸がちらちらと瞬いています。
スマックキリムとは、縦糸に追加の色糸をくるくると巻きつけながら織り進め、モチーフを形作る技法で織りあげられたキリムです。一重の糸で構成される平織りに比べて非常に時間がかかり、熟練した技術を要するものですが、織りあがりは繊細で美しく、とても丈夫な仕上がりとなります。色糸が追加されるため織り地に厚みが生まれ、表面は均一でモチーフの間の隙間（スリット）はまったくありません。
このキリムはイラン東北部、ケルマン州にあるシルジャンの町で織られたオールドキリムです。1930〜40年ごろに織られたという古いもので、よく使いこまれて色も風合いも年代を感じさせながらもほぼオリジナルのままの良い状態を保っています。織り地を覆うスマック織りの中太の色糸はよく踏み込まれ、こすられて、撫でるとさらりとやわらかな手ごたえを与えます。