イランでは、ヒツジの毛刈りは一年に一度、春か初夏に行われます。ハサミやバリカンを使って刈られた毛は、水できれいに洗うのですが、この作業はよいウールを作るのにとても大切な作業です。
川や池で何度も洗い乾かし、きれいになるまでこの作業が繰り返されるのですが、羊毛を洗うのには軟水が最適だそうです。キリムを織る遊牧民にとって羊毛を洗うのに適した流れや池は大切な財産のひとつで、そこを利用する権利は時には結婚の持参金のような扱いになることもあるそうです。
部族によってこのウール洗浄作業は大きく異なり、たとえばカシュガイ族は余分な脂分を落とす為に沸かした灰汁の溶液などを使って洗うのに対し、バルーチ族では、ウールは振って日光に当てられるのみで洗うことはないそうです。これも、その部族が生活する環境に大きく左右されているのでしょう。
ちなみに、ウールを洗うのは毛を刈ってからとは限らず、毛刈りの前にヒツジを川の中に追いやって、まるごと洗うこともあるそうです。ヒツジの丸洗い・・・・。とても大変な作業に違いないけれど、なにやらユーモラスですね。
カシュガイ族などでは糸つむぎは「女の仕事」とされているそうですが、これは非常な労力を要する、果てしない仕事なのです。 羊毛を刈り取って洗ったら、家族総出の手仕事が始まります。男も女も、老いも若きもヒツジの番をしていようとおしゃべり中だろうとたくさんの子どもを見張っていようとお構いなく、器用な手つきで休むことなくくるくるくるくるスピンドルで糸をつむぎ続けます。
この、手つむぎの糸はキリムの美しさの秘密のひとつとなっています。機械でつむいだ糸の繊維がどうしても縮れたりちぎれたりしてしまうのに対し、手つむぎの糸は繊維とほとんど平行なゆるいよりで出来ており、それがキリムの表面にすべらかな仕上がりをもたらすのです。またそれは染色結果にも効果をもたらし、色の美しさを増してしなやかな光沢を与えるということです。