原初のギャッベは染色されず、動物の毛の色そのままに織られていました。そのころのギャッベは模様もなく毛布のようで、今よりずっと素朴な織物だったといいます。
現在も、白や茶色は染めていない羊毛の色です。シンプルなベージュのギャッベのように地色に使われることが多いのですが、模様まで羊毛色のみで織られるものもあります。明るいベージュから深いこげ茶まで豊かな諧調を持つ繊維の色は自由自在に配合されて、ときに驚くほど繊細な表情を描き出します。
ギャッベの色は天然染料で染められています。素材はざくろやサフラン、ブドウの葉などそれぞれの季節の自然に豊富に見られる植物で、深く味わいのある、それでいて鮮やかな発色を特徴としています。
草木染めの技術は遊牧生活の旅の中、いろいろな部族が出会い交流するうちにもたらされたといいます。中でもカシュガイ族は優れた色彩感覚が際立ち、ギャッベの織り手の中心的存在となりました。
色と出会ったギャッベの織り手は素晴らしい自己表現の方法を手に入れました。夜の砂漠を思わせる青のグラデーション、赤い夕日の目を奪われる深み、そして草原をそのまま写し取る緑。鮮やかなギャッベの魅力には草木染めの深い趣き、ウィットに富んだ配色とともに、織り手の心が秘められています。ギャッベの色には意味があるのです。
嬉しい気持ち、わくわくとした楽しい気持ちが織り込まれる赤のギャッベは見る人にエネルギーを与えます。また、砂漠が干上がり、羊たちの餌を求めて緑多いザクロス山中で夏を過ごすとき、黄色いギャッベに砂漠への思いがはせられるといいます。
その色に込められた本当の思いは織り手の秘密だけれど、鮮やかな色彩はその心を垣間見せてくれます。
【赤】
ギャッベの赤は太陽の色、砂漠を染める夕日の色。そして、元気な子供のほっぺを染める生命の色。草木染には主に茜(ロナス)が使われます。
【青】
ギャッベの青は夜の砂漠、青い空、そして荘厳さ。青には精神的な静けさと洗い清める力がひそんでいます。草木染の原料には藍(インディゴの一種)が使われています。
【黄】
ギャッベの黄色は豊かな大地、昼の砂漠、そして父性を表します。草木染めにはザクロや玉ねぎの皮、サフラン、ターメリックなどその季節に豊富な材料を使用します。
【緑】
ギャッベの緑は春の大地。乾いた砂漠に雨が降り、わずかな間だけいちめんに「緑の絨毯」が広がります。青と黄色の重ね染めや、ジャシールという植物を使用します。
【白】
白、または茶、グレーはギャッベの最も基本的な色。白は無垢な「始まりの色」であり、無限の可能性を表します。糸は染めずに、自然な羊毛色が生かされています。
【アブラッシュ】
アブラッシュとは、色むらのこと。織り手の心の機微を表すといわれるゆらぎのある色彩は、ギャッベの美しさの頂点とも言えます。