ギャッベには下絵がありません。町で織られる絨毯の多くが下絵に忠実に織りあげられていくのに対し、ギャッベを始めとする遊牧民の絨毯は下絵も図面もなく、こころに思うがままに織られてゆきます。
ギャッベはそもそも、遊牧民が自分の生活のため、テントに敷いて横になったり座るために織り始められたもので、他者の目に触れることは考えられていませんでした。そのため、そのモチーフはきわめてプライベートなものであり、その織り主の心の中を表すいわば、「織りあげられた日記」のようなものとなったのです。
例えば「テント」。テントのモチーフはあるときは「強くて大きなテントが欲しいな!」という願望をあらわし、またある時は家庭、すなわち結婚への思いをあらわします。あるいは最近起こった心に残る出来事を絵にあらわしたり、また家族への要望を言葉に出さずにギャッベに織り込んで伝えることもあるそうです。
モチーフの多くは織り手にとって大切なものであり、生活の中で重要な意味を持つものであるため、その人がどんな世界観を持っているのか、どんな人柄であるのかが端的に現れます。目の細かさ、大雑把さなどその織り方も含めて、ギャッベを見るとその人となりや最近の出来事が推測されるというわけです。