うっとりと心を吸い寄せる、染みるような赤。凝縮した羊毛によって放たれる色彩は艶やかながらも霧のように形がなく、モチーフは無限の奥行きを背にゆらりと浮遊しています。
ナスルアバッドは、イラン西部・アラークの町の南にある小さな村です。イラン最古のローリー族を起源とするカギ状のメダリオンを今に伝えるナスルアバッドの絨毯は、かっちりと様式化されながらも多種多様な花や動物、愛らしい鳥のモチーフで埋められます。
しっかりと堅牢に織りあげられる構成の強さ、美しい見栄えが称えられるこの絨毯は、同時にそのオリジナリティー、すなわち商業的な影響を受けずに織り継がれた数少ない生粋の家庭織りペルシャ絨毯であることに価値を見出されています。
四隅に潜む濃く静かな藍の夜に、中央には白く輝く2本の矢。魔除けのサソリを抱き、ぎざぎざと縁をきらめかせる双子のメダリオンは森羅万象を照らす光の源を示しているようです。
この絨毯は数年以内に織り上げられた新しいものですが、連綿と受け継がれてきた伝統の揺るぎない品位を現わしています。